国立成育医療センター研究所
成育政策科学研究部 Department of Health Policy

第U章 【 子どもの特徴と小児保健 】

(図表で学ぶ小児保健 建帛社 2009年3月版より抜粋)
国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部 加藤忠明

本章のねらい
大人にはない子どもの特徴としての発育・発達とはどのようなものか、また小児保健の目標として、子どもに対してどのような支援が望まれるか理解する。発育・発達にはいろいろな原則があることを知る。また、生命活動を調整している脳の特徴的な発育について学び、乳幼児期の良好な保育環境の大切さを考える。そして、生命リズム、ことに睡眠−覚醒リズムの重要性を理解し、その発達状況、及びホルモン分泌との関連性を知る。

キーワード
子どもの特徴、小児保健、発育・発達の原則、生命活動、脳の発育、サーカディアンリズム、周日リズム、ホルモン分泌

1.子どもの特徴
 子どもの最も大きな特徴の一つは、発育・発達することである。からだがしだいに大きくなって発育(成長)していくと、子どもはいろいろなことができるようになり発達する。また、発達に伴って身体が成長していくので、成長と発達は密接な関連がある。そこで、両者をあわせて発育ということもある。小児保健で比較的よく使用される語句を表1-1に示す。

2.小児保健とは
(1)小児保健の目標
 子どもが本来もっている発育・発達する能力が十分発揮されるように支援することが小児保健の目標である。主体は子ども自身であるが、健康に関する様々な職種の人々の協力が必要である。個人個人の努力と共に、地域や行政組織の人々の努力が大切であり、また、それらを支える母子保健や児童福祉施策が必要である。健やか親子21の主な目標を表1-2に示す。
 子どもの健康を維持増進させることは大切であるが、子ども一人ひとりについてと共に、人々全体も考慮する必要がある。例えば、細菌感染症の治療に抗生物質が使用されて患者の感染症は治っても、多用すると耐性菌の出現が心配される。また、遺伝病のある一部の患者は、医療の進歩、治療乳などにより普通の生活を送れるようになったが、病的遺伝子が人類の中に増えている。
(2)時代や地域により異なる目標
1)昔の日本、現在の発展途上国  栄養不良に伴って発育不良となり、免疫の抵抗力が低下して、消化不良症や肺炎、結核などの感染症に罹る子どもへの対策が小児保健の重要な課題である。
2)現在の日本、先進国  様々な環境の変化への対策が課題である。女性の高学歴化や職場進出に伴って、育児休業制度や保育体制の整備、育児不安を相談できる場の確保、正しい情報提供などが重要である。また、少子化に伴って、人間関係の希薄化が心配されるので、子どもたちが自由に楽しく安全に遊べる場を確保したい。そして、長期生存が可能となった慢性疾患のある子どもへの対応、QOL(生命・生活の質)の向上が小児保健の課題である。

 表1-1 小児保健でよく使用される語句
発育(成長) 身体が形態的に大きくなること
発達 精神面、また運動面で機能的に成熟していくこと
健康 WHOの定義では、身体的、社会的、精神的に完全に良好な状態
新生児  出生直後より母体外生活に適応可能となるまでの乳児、統計上は生後28日未満の乳児
早期新生児 統計上は、生後7日未満の乳児
乳児 満1歳に満たない者
幼児 満1歳から、小学校就学の始期に達するまでの者
少年 小学校就学の始期から、満18歳に達するまでの者
学童 小学生
児童 児童福祉法では、満18歳に満たない者
児童生徒 学校教育法では、児童は小学生、生徒は中学生と高校生

 表1-2 「健やか親子21」の主な目標
      21世紀初頭における母子保健の国民運動計画(2001→2010年)
課題 思春期の保健対策の強化と健康教育の推進 妊娠・出産に関する安全性と快適さの確保と不妊への支援 小児保健医療水準を維持・向上させるための環境整備 子どもの心の安らかな発達の促進と育児不安の軽減
主な目標(2010年) *十代の自殺率(減少傾向へ)
*十代の人工妊娠中絶実施率(減少傾向へ)
*十代の性感染症罹患率(減少傾向へ)
*妊産婦死亡率(半減)
*産後うつ病の発生率(減少傾向へ)
*産婦人科医・助産師数(増加傾向へ)
*全出生数中の(極)低出生体重児の割合(減少傾向へ)
*不慮の事故死亡率(半減)
*妊娠中の喫煙率、育児期間中の両親の自宅での喫煙率(なくす)
*虐待による死亡数(減少傾向へ)
*出産後1か月時の母乳育児の割合(増加傾向へ)
*親子の心の問題に対応できる技術を持った小児科医の割合(100%)
(母子保健の主なる統計より)

3.発育・発達の原則
 子どもは、それぞれの遺伝的素因に基づき、また、養育条件など環境との相互作用による影響を受けながら発育・発達していく。発育・発達には個人差が大きいが、生物学の一般法則が当てはまり、以下のような原則がある。
1)第一原則  発育・発達は連続した現象である。原則としてある段階から次の段階に飛躍することはない。
2)第二原則  発育・発達は秩序正しく、遺伝的に規定された一定の順序で進む。たとえば、運動機能は、首すわり→おすわり→一人立ち→歩行へと進む。
3)第三原則  発育は身体の各部に均一に起こるのではなく、その速度も一定ではない。一般的に体重や身長は、乳児期に急速に伸び、幼稚園〜小学校低学年ではゆっくりになり、思春期に急速に伸びて(スパートして)大人になる。しかし、器官別に見ると、神経系の発育は乳幼児期に最も急速であり、生殖器系の発育が最も遅い。また、免疫機能を担うリンパ系は子どもの時、一時的には大人よりも大きくなり、感染防御機能の基礎をつくる。
4)第四原則  発育にとっては決定的に大切な時期がある。その時期に発育現象が起こら(経験し)ないと、将来、その能力を獲得できない期間のことで、臨界期(感受期)という。アヒルのヒナは生まれて最初に見た動くものを(たとえ動く人形であっても)母親と認めてその後を追うようになる。人間では、出生後に明確なものは知られていないが、主な臓器・組織は妊娠初期につくられるので、奇形の発生を予防するためには、妊娠初期に母体の健康を保つことが大切である。
5)第五原則  発育には方向性がある。代表的なものには、頭尾方向(頭部から尾部への発育)、近遠方向(身体の中心に近い部位から遠い部位への発育)、粗大→微細方向(粗大な動きから微細な動きへの発育)などがある。
6)第六原則  発育は相互作用によって支配される。その相互作用は、細胞、組織、臓器、さらに個人のレベルでも行われる。子どもにとっては、養育者をはじめとする環境との相互作用が大切であるが、人と人との相互作用で重要なものは、出生直後からの母子相互作用である。

4.生命の特徴
 生命活動は動的平衡状態で行なわれており、たえず変化しながらも、見事な調節能力でバランスを保っている。
 細胞数は、1個の受精卵から出生時には約2兆個、大人では約60兆個に達するが、常に消滅と新生を繰り返している。大人では、脳細胞以外の細胞は、2年間で約97%が入れ替わる。ことに血球の交代は早く、赤血球の寿命は約120日、血小板は約10日である。
 身体は、神経系、ホルモン系、免疫系の3系統で調節されている。神経系が神経を通して伝える情報は、1秒間に約1mの早さで最も早く伝えられるが、長続きしない。ホルモン系と免疫系は、血液などを介してゆっくりと、しかし長く情報を伝える。神経系は脳から指令が出されることが多く、また、ホルモン系は脳内にある視床下部や脳下垂体が調節している。そして、免疫系は脳内の松果体が関わっているので、脳が生命活動を調整していると言えよう。

5.脳の発育の特徴
(1)脳の発育
人間の脳は、おおまかに3層からできていて、他の臓器とは異なる特徴的な発育をする。下層の脳幹は、生命の維持に必要な心拍、呼吸、体温調節などの機能を司っており、出生時にほぼ完成している。中層は、大脳辺縁系とよばれ、本能や情動の座であり、たくましく生きていく役割を果たしている。上層の大脳新皮質は、人間を特色づける知性の中枢であり、乳幼児期、急速に発育、発達する。
脳の重量は、出生時に約350gで大人の約25%であり、出生後急速に増加して3歳で約80%、6歳で約90%に達する。大脳新皮質の約140億個の脳細胞の数は、出生時にほぼ揃っており、出生後には増えない。しかし、この脳細胞の働きを助けるグリア細胞の増加と、脳細胞どうしの連絡網(神経回路)が密になるため重量が増加していく。この回路の形成によって以下のように、脳細胞は情報を効果的に伝えることができる。
(2)脳の機能発達
一つひとつの脳細胞の役割は、情報の受渡しである。脳細胞からでている突起(軸索)が、情報の連絡網の役割を担っている。情報は、軸索のなかを電気信号で伝わり、隣接した細胞にはシナプスから神経伝達物質を分泌して情報を伝える。そして、脳全体として自己の身体調整能力を担っている。
軸索は、グリア細胞が作る髄鞘という膜をかぶることによって、情報をより早く、より正確に伝えるようになる。この髄鞘化は、脳細胞の成熟を意味しており、部位により異なるが、乳幼児期に盛んに行われる。たとえば、手足の運動神経では、満1歳ころ大人と同程度に発達する。
脳細胞や神経回路は、遺伝的に決められた範囲内でのみ機能、成熟していく。しかし、実際に使用されて機能するのは、それらの10%以下である。どの部分がどのように成熟、発達していくかは、子どもの時にどのような有効な刺激が加わるかによって決まる。それを援助できる良好な保育環境を整えることが望まれる。使われない脳細胞や回路は消滅し、よく使用される部分はさらに発達すると考えられている。

6.生命リズムの重要性
 生命現象には、心拍や呼吸など重要な様々なリズムが見られる。その中でホルモン分泌、体温や血圧などとも関連して健康や病気に関わりうるサーカディアンリズム(概日・周日リズム)、昼夜の区別について述べる。
 人は、時計のない別空間で生活すると、25〜26時間周期で睡眠−覚醒を繰り返す。したがって、寝起きの際はもう少しふとんの中で休みたい、就寝時はもう少し遊んでいたい、と思う気持ち自身は正常である。しかし、多くの人は、太陽が昇って沈む24時間周期に合わせて生活している。健康を保つためには、その生活リズムが大切である。
(1)睡眠−覚醒リズムの発達
 新生児は、3〜4時間の授乳リズムで睡眠−覚醒を繰り返し、昼夜の区別があまりない。しかし、月齢と共に親の睡眠−覚醒リズムを見習うことによって、生後2〜3か月ころ昼夜の区別が可能になる。したがって、寝室は薄暗い静かな部屋が望ましく、夜中は乳児をあまり構わないで授乳間隔を長めにする方がよい。
 乳児は、生後半年ころから夜泣きが始まり、1歳すぎまで続きやすい。人の睡眠は、一晩で4〜5回深くなったり浅くなったり繰り返す。乳児は浅い眠りの時に夜泣きしやすい。昼間元気で食欲があれば、夜泣きする乳児自身の問題は少なく、周囲の人を困らせる場合が問題となる。その際の注意点を表1-3に示す。ただし、乳児が空腹のため夜中1〜2回泣くのは夜泣きとは言えない。
(2)睡眠−覚醒リズムとホルモン分泌
 睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、90〜120分周期で反復している(図1-4)。レム睡眠中は、眼球が急速に動き(rapid eye movement:REM)、呼吸や心拍、体動が増え、夢を見ていることが多い。加齢とともに減少する。
 各種のホルモンは24時間周期で分泌され、身長を伸ばす成長ホルモンは入眠時に、日中の活動を支えてストレスへの対応反応をする副腎皮質ホルモンは朝方に、脳の松果体で作られ睡眠リズムの調節と免疫機能の向上作用をもつメラトニンは睡眠中に分泌される。これらの生体リズムの乱れは、自閉症、情緒障害、不登校などで発生するので、治療の第一歩として改善させたい。

 表1-3 夜泣き防止の注意点
*夜中、乳児が少しくらいぐずっても、すぐには構わない。しだいに激しく泣く場合に授乳する。
*就寝前に乳児を興奮させすぎない。
*昼寝を含めた一日全体の睡眠時間が長すぎないようにする。
*就寝前に空腹や満腹になりすぎないようにする。
*昼間、十分運動させる。
*アトピ−性皮膚炎、汗疹などかゆい皮膚は治療して治す。
*幼児期には減りやすいが、母乳を止められなかったり、体調の悪い時、疲れた時、ストレス時などには夜泣きしやすいので注意する。

考えてみよう
1.子どもの特徴にはどのようなものがあり、それを支援するためにはどうしたら良いか考えてみよう。
2.子どもはどのように発育・発達していくか考えてみよう。
3.他の臓器と異なる、脳の発育について考えてみよう。
4.24時間のリズムで生活するためにはどうしたら良いか考えてみよう。

参考図書
1)母子愛育会・日本子ども家庭総合研究所編:最新乳幼児保健指針.日本小児医事出版社、2006
2)高野陽、加藤則子、加藤忠明編著:小児保健.北大路書房、2007
3)衛藤隆他編著:新世紀の小児保健.日本小児医事出版社、2008
4)保育士養成講座編纂委員会編:小児保健.全国社会福祉協議会、2008
5)民秋言監修:保育士合格完全ガイド.日本文芸社、2008


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