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(新・保育士養成講座 第5巻 小児保健 全国社会福祉協議会 2005年1月改訂1版より抜粋)
国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部 加藤忠明
学習のポイント
身体が形態的に大きくなることを発育または成長といい、子どもの大きな特徴の一つである。個人差は大きいが、明らかな疾病がある場合を除けば、発育の多少の大小、栄養状態の多少の善し悪しは長い目でみて心配ないことが多い。いろいろな子どもがいるが、身近に世話をする大人との信頼関係は、子どもが発育後、他の人を信頼して生きていけるかどうかの鍵となる。
乳幼児の身体発育評価として体重や身長は、からだ全体の大きさを知ることができ、頭囲は中枢神経系の発育を反映し、胸囲や座高は臓器など体幹部の発育を知る手がかりとなる。厚生労働省が10年毎に全国調査している乳幼児身体発育値が、それらの基準として一般的に使われる。
第1節 小児の身体発育の概念
1、発育と発達
一般的には、身体が形態的に大きくなることを発育または成長といい、精神的に、また運動面で機能的に成熟していくことを発達という。からだが大きく成長していくとともに、発達していろいろなことができるようになり、また、発達に伴って身体が成長していくので、これらは密接な関連がある。したがって、両者をあわせて発育ということもある。いずれにしても、発育、発達することは、大人にはない子どもの大きな特徴の一つである。
発育、発達は、養育者をはじめとする環境との相互作用によって促される。養育者からいろいろ世話を受け育てられる子ども自身も、その性格の違いにより養育者の養育態度に多くの影響を与え、その養育環境のなかで子どもは発育していく。また、発育、発達は一定の歩調で進むのではなく、いわばジグザグ的にいろいろな経過をたどる。発育していくことは、子ども自身にとっても、また親や保育者にとっても大きな喜びの一つである。子どもの環境にはどういうものがよいかというより、個々の子どもにあった環境を整えることが大切である。
2、発育の個人差
小児の発育には個人差が大きい。明らかな疾病がある場合を除けば、発育の多少の大小、栄養状態の多少の善し悪しは長い目でみて心配ないことが多い。子どもが大きくなればいずれは両親の体重や身長に似やすい。最近の親たちは、子どものちょっとした偏りをすぐ心配することが多いので不安を与えないよう、また、肥満などと判定されたことが差別につながらないよう、特に配慮したい。
第2節 小児の身体発育の特徴
1、発育の原則
子どもの発育には、生物学の一般法則が当てはまり、以下のような原則がある。
第一原則 : 発育は連続した現象である。原則としてある段階から次の段階に飛躍することはない。
第二原則 : 発育は秩序正しく、遺伝的に規定された一定の順序で進む。たとえば、運動機能は、首すわり→おすわり→一人立ち→歩行へと進む。
第三原則 : 発育は身体の各部に均一に起こるのではなく、その速度も一定ではない。一般的に体重や身長は、乳児期に急速に伸び、幼稚園〜小学校低学年ではゆっくりになり、思春期に急速に伸びて(スパート)成人に達する。しかし、器官別に見ると、神経系の発育は乳幼児期に最も急速であり、生殖器系の発育が最も遅い。また、免疫機能を担うリンパ系は小児期に成人よりもよく発育し、感染防御機能の基礎をつくる。
第四原則 : 発育にとっては決定的に大切な時期がある。その時期に発育現象が起こらないと、将来、その能力を獲得できない期間のことで、臨界期(感受期)という。人間の主な臓器・組織は妊娠初期につくられるので、奇形の発生を予防するためには妊娠初期の母体の健康が大切である。
第五原則 : 発育には方向性がある。代表的なものには、頭尾方向(頭部から尾部への発育)、近遠方向(身体の中心に近い部位から遠い部位への発育)、粗大→微細方向(粗大な動きから微細な動きへの発育)などがある。
第六原則 : 発育は相互作用によって支配される。その相互作用は、細胞、組織、臓器、さらに個人のレベルでも行われる。人と人との相互作用で重要なものは、出生直後からの母子相互作用である。
2、年齢別発育と保育の特徴
(1) 0歳児(乳児)
乳児の発育はめざましく、出生後1年間で体重は出生時の約3倍に、身長は約1.5倍になり、その間、日毎に少しずつ種々の新しいことができるようになる。
乳児は泣いたり笑ったり見つめたり、いろいろな情報を養育者に送り何かを要求し、また養育者の抱擁に気持ちよさそうにしたり、周囲からの話しかけに眼を合わせようとする。乳児は受け身の存在ではなく、自ら積極的に周囲に働きかけ、また養育者の行動にいろいろ反応している。
両親と保育者との間に相互理解や信頼関係をつくりあげることも大切である。乳児をもつ親は、いろいろな育児行動をしながら、しだいに親としての自覚、母性・父性意識が高まっていく。多くの育児情報が氾濫するなかで、親が育児不安に陥らないよう、親と保育者が何でも話し合える雰囲気を作ることが望まれる。
(2) 1、2歳児
1歳くらいから、幼児の体つきはやせ型になっていくが、罹病率は下がり、ことばは増えていく。運動が活発になり、行動範囲が広がり、何事にも興味をもって歩きまわり、養育者が一寸目を離した時のいたずらが多くなる。子どもにとっては好奇心旺盛になる時期である。
養育者は子どもの行動結果がわかるので、始めから失敗させないよう禁止や命令が多くなる。子どもは結果は考えずに何でも自分でやりたがる。子どもの要求を養育者がすべて満たしたのでは、何でもできるという錯覚を子どもに与えてしまう。また、養育者が子どもの自立の芽をいつも摘みとると、養育者の判断にのみ頼る依存的な存在になりやすい。
養育者は、極力子どものすべてを受け入れ、子どもと信頼関係を作りながら、子どもが充分に自己発揮できるようにして、他者との葛藤の中でしてはいけないことを自分で気づけるようにしたい。何をどこまでしたら良いか悪いか自然に身につかせたい時期である。できる範囲、危なくない範囲で子ども同士が接触できる場をもちたい。
食事に関しては、むら食いや遊び食いが多くなりやすい。栄養のバランスを考えて、一日30品目以上の食品を、一日3回の食事と1〜2回の間食で、家族または友だちといっしょに、時刻をだいたい決めて規則正しく食べられるとよい。遊び食いしたり満腹になったら無理に食べる必要はない。次の食事や間食の時刻まで待ち、多少は空腹感も感じられるようにする。このことが家庭と保育所とで調和よく行われるようにもっていく。
(3) 3〜5歳児
3歳すぎると、長い歩行も可能になり、走ったり、スキップしたり、体の動きが段々に敏捷になっていく。手を叩いてスキップしたり、足と手の運動の協応がしだいに上手にできるようになる。リズムを合わせてからだを動かすことを子どもは特にこの時期に喜ぶ。また、友だち同士でごっこ遊びなどをして遊べるようになる。
子どもは、何気なく遊んでいるようでも、生き生きと生活しそのなかで種々のことを学習し身につけていく。そこに子どもの本当の姿を見ることができるので、遊びを大切にしたい。
家庭での生活を基盤にしながら、より広い社会生活を経験し、その喜びや葛藤体験のなかで社会性が発達していく。生活や遊びのなかで、人間に対する信頼感、自発性、意欲、豊かな感情、物事に対する興味、関心、思考力、表現力、運動の能力などの基礎が養われる。
友だちと、また時には一人で自由にのびのびと遊べるよう、いろいろな環境作りが大切になる。遊びに関しては幼児自身が自主的に考えてできる場面も作りたい。幼児自身が自分の考えをいい、また、人の考えを聞けるようにしたい。文字や数に関しては、幼児自身が興味をもちだしてから、それを媒介にしていっしょに遊ぶようにする。
自分自身を取り囲んでいる世界に関心と親しみの目を、幼児が向けられるようにしたい。いろいろなことを体験できるとよい。また、幼児の興味や疑問に対して教える。そのためには、ゆとりある生活リズム、周囲の温かい人間関係、自然環境との豊かな触れ合いなどが大切になる。
第3節 小児の身体発育の評価
発育評価は、経験に基づいて、視診・触診などでも多少はできるが、客観的には身体計測を行う。この計測値は、発育の経過をみることが大切であるので、誰が測定してもほぼ同じ結果が得られ、再現性の良いもの、またある程度簡便にできる実用的なものが好ましい。
したがって子どもの時期は、体重、身長、頭囲、胸囲、座高を必要に応じて計測することが多い。このうち体重や身長は、からだ全体の大きさを知るためのものである。また、頭囲は中枢神経系の発育を反映し、胸囲や座高は臓器など体幹部の発育を知る手がかりとなる。頭囲以外の計測値は一般型の発育経過、頭囲は神経型の発育様式を示す。
1、乳幼児の計測の手技
(1) 体重
体重計は、デジタル式体重計、分銅式台秤いずれでもよいが、乳幼児の計測では感度が10g単位以内のものを準備したい。体重計は、必ず事前に検査し、目盛りなどのくるいを調整しておく。
原則として全裸で測定する。乳児では、授乳直後はさけ、仰向けか座位で、秤の台、またはかごにのせて計測する。おむつを敷いたり、乳児を布で包んで計測する時は、その重量を差し引く。幼児では、食直後の計測はさけ、パンツだけはかせて測定することが多い。年齢が大きい幼児では排尿・排便をすませた後で、台秤に正しく立たせて測定する。低年齢児の場合は、体重と身長を同時に測定できる計測器にのせて測ることが多い。
計測の前後に、体重計の0位を確かめる。体重計の中央に被験者を静かにのせ、指針が静止してから目盛りを読む。あばれて測定しにくい場合、一瞬力を抜くときの数値を読み取るか、または、大人が乳幼児を抱いていっしょに重さを測り、その後、大人の体重のみ測定し、その差を乳幼児の体重とするとよい。計測の単位は少なくとも10g単位までとしたい。ただし、デジタル式体重計で数値が表示される場合は、その値を記入する。
(2) 身長
身長計は、乳幼児用(仰臥式)、及び学童用または一般用を準備する。それぞれ尺柱などが正しく直角であり、移動板がなめらかにすべるようなものを準備する。2歳未満の乳幼児は仰臥位で、2歳以上の幼児は立位で測定する。1mm単位まで計測する。
@2歳未満の乳幼児 身長計の台板上に、全裸にした乳幼児を仰向けに寝かせて、台板と垂直の固定板に乳幼児の頭を、1人の計測補助者がつけて固定する。児の頭頂点を固定板につけ、耳眼面(耳珠点と眼窩点とがつくる平面)が台板と垂直になるように頭部を保持する。そして、他の計測者が乳幼児の両膝をかるく台板におさえて、下肢を伸展させる。移動板をすべらせて乳幼児の足のうらにあて、足のうらが台板と垂直な平面になるようにして、2人で測定するとよい。その場合の身長は、固定板と移動板の間の長さである。
A2歳以上の幼児 全裸かパンツ1枚にして、学童と同様の立位の身長計を用いて、尺柱を背に直立の姿勢で計測する。足先は30°くらいの角度に開き、踵、臀部、胸背部が一直線に尺柱に接するようにする。胸をあまり張らないようにし、腹部をひくとよい。両上肢はかるく手のひらを内側にして自然に垂らす。幼児のあごをひき、耳眼面が水平になるようにして測定する。補助者が幼児の顔面と同じくらいの高さから話しかけるとよい。このとき、後頭部は必ずしも尺柱につかないこともあるから強く押しつけない。計測者は児の片側に立って、可動水平板を静かに下げてかるく頭頂部にふれて目盛りを読む。
(3) 頭囲
2歳未満の乳幼児は仰臥位で、2歳以上の幼児は座位または立位で測定する。ただし、泣きあばれる乳幼児は母親や付添人が抱いた状態でもよい。乳幼児の後頭部のいちばん突出しているところを通り、前頭部の左右の眉の直上を通る周径を、巻尺で計測する。前頭部は、以前、ひたいの突出部であったが、昭和55年以降は眉の上を通して計測している。1mm単位まで計測する。
(4) 胸囲
上半身を裸にし、2歳未満の乳幼児は仰臥位で、2歳以上の幼児は立位で測定する。乳幼児の両腕を軽く側方に開かせ、左右の乳頭点のすぐ上を通るようにして、体軸に垂直な平面内にある巻尺で計測する。巻尺は強くしめず、皮膚面からずり落ちない程度とする。計測値を読むときは、自然の呼吸をしているときの呼気と吸気の中間で測定する。泣いているときは避ける。また、幼児は胸に力を入れることがあるので、このようなときは話しかけたりして緊張をやわらげるとよい。1mm単位まで計測する。
2、身体発育値の評価
(1) 身体発育基準値
乳幼児の身体発育評価の基準は、古くからいろいろなものが使われている。一般的には、厚生労働省が10年毎に全国調査している乳幼児身体発育値が使われ、現在は平成12(2000)年の発育値1)、すなわち体重、身長、頭囲、胸囲のパーセンタイル値(以下2000年値と略す)が用いられている。
各々の年月齢の体重、身長、頭囲の3、97パーセンタイル曲線が母子健康手帳に載っている。個人個人の計測値を、これらのパーセンタイル値または曲線と比較して発育を評価することが多い。3および97パ−センタイル曲線の間に、各年月齢、94%の乳幼児の値が入る。この帯の中に入って本人なりに発育していれば、まず問題ないと判断される。
(2) 発育評価の注意点
@安易に発育異常としない 3パーセンタイル値未満、また97パーセンタイル値以上の場合は、発育の偏りとしたり、10パーセンタイル値未満や90パーセンタイル値以上の場合は偏りの疑いとして、経過観察することが多い。経過観察によって順調な発育を確認することは大切であるが、体重や身長などの各計測値のバランスがとれており、出生時からの計測値が本人なりに増加していれば心配ないことは多い。医師による診察や精密健診を待たずに安易に発育異常と判断しないようにしたい。
A横断的調査 2000年値は、ほぼ同時期に調査された1万4115人の横断データであり、一人の乳幼児を時間的経過を追って観察した縦断データではない。したがって、個々の乳幼児がパーセンタイル曲線にそって発育することを示しているわけではない。1人ひとりの発育は、急に大きくなる時期があったり、あまり大きくならない時期もあるので、正常な乳幼児の発育値も、この曲線に必ずしも平行しないことは多い。
Bその他 乳幼児身体発育値は、2歳未満児の身長は仰臥位で、2歳以上は立位で測定した結果であるので、2歳時の部分に段差がみられる。
2000年値の集計では、出生時から生後30日までは日齢ごとに、生後1か月以降の2歳未満児は1か月ごとに、2歳以降は6か月ごとに区分したので、年齢が大きい場合、パ−センタイル曲線の幅が広くなっている。
(3) 体重
@健康状態の指標 新生児の生理的体重減少を除けば、乳幼児の体重計測値は、その時々の健康状態や栄養状態を反映して多少増減しながら、年月齢とともに少しずつ増加していく。消化不良症や上気道炎などの急性疾患のため体調が悪化した乳幼児は、一時的に体重は減少するが、多くの場合、体調の回復とともにキャッチアップしてもとの体重になる。
夏、暑い時は一時的な食欲不振により体重が減少することはあるが、秋になり涼しくなると、また増えることは多い。したがって体重は、その時々の健康状態を知る簡便な良い指標となる。そのため、定期的に体重を測定して、1人ひとりの乳幼児の日頃の状態を知っておくことが望ましい。保育所、乳児院また幼稚園に入園している乳幼児では毎月、体重を測定して健康状態をチェックしたい。
A病児の経過観察 各種の慢性疾患をもつ乳幼児では、長期的にも短期的にも体重の増減がみられるので、病気を早期に発見する意味、またその疾患の経過を知る意味で体重は大切な指標となる。
一般的に慢性疾患児は、治療しないと徐々に体重増加不良になることが多い。また、急に体重の増減がみられた場合は、急に悪化した恐れがあるので注意したい。病院に入院している乳幼児では毎日、体重を測定して健康状態をチェックすることが多い。
(4) 身長
@健康状態の指標 乳幼児の身長計測値は、計測上の誤差はあっても、体重のような増減はあまりなく、年月齢とともに少しずつ増加していく。その意味では、長期にわたる健康状態や栄養状態を知る大切な指標となる。
A低身長 一般的には、2000年値の3パーセンタイル値未満、または標準身長に比べて2倍以上標準偏差が低い身長の場合をいう。
このうちホルモン不足による成長ホルモン分泌不全性低身長症(下垂体性小人症)やターナー症候群、プラダー・ウィリー症候群、軟骨無形成症、慢性腎不全の患児は、成長ホルモン投与により身長の伸びが期待できる。ヒト成長ホルモンは、遺伝子工学の進歩によって合成が可能となり、以前より適応範囲が広がった。
(5) 頭囲
@頭囲の異常 2000年値の3または97パーセンタイル値を外れる場合、または胸囲に比べて頭囲が著しく大きいか小さい場合を問題にすることが多い。乳幼児は神経系の発育が急速であるため、他の年齢に比べて異常の発現率が比較的高い。
A大きな頭囲 頭囲が大きい場合は、脳腫瘍や水頭症の早期発見が大切であり、大泉門の状態をよく診たり、他の神経系の症状の有無に注意したい。他に症状がない場合、1週間に1回くらい頭囲を測定して急に大きくならないことを確かめたり、必要に応じてCTスキャンなどのレントゲン検査を行う。
B小さな頭囲 頭囲が異常に小さい場合は、新生児仮死の後遺症としての脳性まひや小頭症、または頭蓋骨の縫合が早期に閉鎖する狭頭症のことが多い。前者は新生児期から専門医が経過観察していることが多い。狭頭症は、放置すればしだいにいろいろな神経症状が出現してくるので、早期に発見して脳外科的な治療を行う。
(6) 体重・身長のバランス
乳幼児の栄養状態をより正確に知るためには、体重計測値や身長計測値そのものでなく、それらのバランスでみることが多い。以下のような図示、カウプ指数、肥満度などを参考にする。
@図示 一般の乳幼児健康診査時など1人ひとりの計測値を、母子健康手帳などに載っている、体重や身長のパ−センタイル曲線のグラフ上に記入してみるとよい。この場合、体重や身長の大小やその経過がわかるだけでなく、それらのバランスもだいたい知ることができる。
幼児の男女別身長体重曲線(身長70〜118cmのみ)は、2000年値に基づいて算出されているので便利である。幼児の体重と身長が交差する点を、母子健康手帳の身長体重曲線のグラフに記入するとよい。
幼児では、図7の標準値に比べて「+30%以上:ふとりすぎ、+20%以上+30%未満:ややふとりすぎ、+15%以上+20%未満:ふとりぎみ、−15%以上+15%未満:ふつう、−20%以上−15%未満:やせ、−20%未満:やせすぎ」とする。これらは、若い親にとって目でみてわかりやすいので便利である。
Aカウプ指数 乳幼児の体重や身長の計測値そのものは、年齢とともに大きくなるので、年齢を知らずに計測値をみても栄養状態の判定はできない。しかし、体重kg/(身長m)2=カウプ指数(body
mass index:BMI)は、乳幼児期ほぼ一定の値を示すので、栄養状態を知るために便利な体形指数である。体重計測値と身長計測値を合わせるとカウプ指数がわかる簡単な計算器が乳幼児健診時などに使われることがある。
乳幼児のカウプ指数は、15〜18くらいがほぼ正常域であるが、より正確な標準値としては、平成2年乳幼児身体発育調査結果(以下、1990年値)をもとに計算された男女別、年齢別のカウプ指数パ−センタイル値2)を使用することもある。各々の年月齢で3パ−センタイル値未満はやせ、97パ−センタイル値以上は肥満と判定されることが多い。
B肥満度 肥満度は、学童期以降の肥満判定に用いられることが多いが、幼児にも使われる。1990年値をもとに計算された男女別、年齢別、身長別の標準体重3)をもとに、(実測体重−標準体重)/標準体重×100%=肥満度(%)、標準体重比を計算する。幼児の肥満度20%の場合、カウプ指数で97パ−センタイル値あるいはそれよりやや大きい見当になる。一般的には肥満度が20%以上30%未満を軽度、30%以上50%未満を中等度、50%以上を高度の肥満とする。
3、肥満
からだの脂肪ことに皮下脂肪が過剰に増加した状態を肥満という。身長に比べて体重が重すぎる場合、必ずしも脂肪が沈着しているとは限らないが、一般的にはこの体重をめやすに肥満を考える。
(1) 肥満の問題点
最近は3歳以降の肥満の増加、また肥満度50%以上の高度の肥満の増加が指摘されている。この肥満は、本人が劣等感をもったり、運動能力が低下したり、さらに成人の肥満に移行して動脈硬化や糖尿病などを引き起こす誘因になることが問題である。
(2) 肥満の注意点
3歳以下の乳幼児の肥満では、乳幼児自身の肥満による悪影響より、将来の肥満の基礎になるかどうかが議論の中心である。ことに乳児の肥満は、極端な場合を除けば、成長後の肥満に必ずしも結びつかない。したがって、乳児に対する乳汁栄養は原則として制限しない。しかし、あまり多くの量を飲まないようには注意する。離乳食は、かゆなどの炭水化物だけ多くすることを避け、副食も平行して増やしていくことが大切である。
幼児期以降の肥満に対しては、過食を避け、ことに炭水化物を食べ過ぎないよう、また運動を活発に行うよう注意する。すなわち、食事は米飯やめん類に偏らず、タンパク質や野菜、果物を多くする。間食では砂糖が多い菓子や清涼飲料類を制限する。カロリー源とならない海草、こんにゃく、きのこ類も利用するとよい。脂肪は特には制限しない。公園など戸外で遊んだり、歩く機会をつくる。からだを動かすことを毎日続けられるような規則正しい日常生活を送る。肥満児および家族が治療に対する強い意欲をいかにもつかが大切である。しかし、これらの注意点は、肥満のない乳幼児に対しても大切なことがらであり、肥満児が特に差別されないよう気をつけたい。また、頻度は少ないが症候性肥満にも注意したい。
4、やせ
各種の疾患により様々な程度のやせが発生するので、身体発育の経過、また他に何か症状があるかどうかに注意したい。消化不良症など一時的な急性疾患が原因によるやせは、原因疾患の治療が大切である。しかし、最近は飽食の時代になっているので、単なる食事の過誤や栄養不良によるやせはほとんどみられない。
乳幼児の慢性的、かつ病的なやせの原因として一番頻度の高いものは、先天性心疾患である。この場合、乳幼児健診などで医師の診察により、心雑音があることで気づかれ、専門医が経過観察していることが多い。病的なやせは、その他児童虐待、1型糖尿病などの有無に注意したい。慢性的な消化器疾患や免疫不全症は、下痢や易感染性など他の症状で気づかれていることが多い。
第4節 小児の身体発育影響因子と保育
胎児や乳幼児は、以下のような因子の影響を受けながら発育していく。
1、身体発育影響因子
(1) 先天性の因子
@性 一般的には、女児より男児の方が大きい。
A人種 欧米人に比べて日本人は小さめの傾向、国際結婚の場合はやや大きめの傾向がみられる。
B家族 出生時の発育は、父親より母親との相関が比較的強いが、幼児期以降は父親との関連も大きくなり、いずれは両親の体重や身長に似やすい。
(2) 妊娠中の危険因子
妊婦の母体内で胎児が順調な発育をするためには、妊娠期間中の危険因子(子どもに異常を生じさせる可能性のあるもの)を避けることが大切である。これには、近親婚、若年の妊娠(20歳未満)、高年齢の妊娠(35歳以上)、重症な妊娠中毒症、妊娠中の重労働(農繁期の専業農家など)、妊娠中の喫煙・飲酒・薬物服用、風疹罹患、X線照射(胃のレントゲン検査など)などがある。
したがって、これらを極力避けることにより、発育の良好な赤ちゃんが産まれる確率が増す。また、妊娠中はストレスを避け、少しでも楽しく過ごせるよう、妊婦自身があまり無理をしないで精神的安静に努めるとともに、それを助けるための周囲からの協力が望まれる。
(3) 年次推移
人口動態統計4)によれば日本人の平均出生体重は、昭和51年以降減少傾向がみられる。その最も大きな理由は、早産(在胎週数満37週未満での出産)の増加と過期産(在胎週数満42週以降)の減少である。周産期医療の向上によって、分娩予定日まで妊娠を持続させることが昔ほど重要でなくなり、低出生体重児の出生が増加したこと、妊娠糖尿病の管理が向上して巨大児の出生が減少したこと、不妊症治療としての排卵誘発剤使用や体外受精によって双子以上の複産児の出生が増加したこと、また、計画分娩の流行などによる妊娠期間の減少が考えられている。さらに妊婦の体重管理の向上による出生体重の減少もいわれている。
2歳以下の乳幼児の体重も、出生体重の減少にともない減少傾向がみられる。この傾向は、さらに母乳栄養率の増加によるところもある。
全国的な乳幼児身体発育調査は、昭和25年以降、10年毎に行われている。戦後、日本人の栄養状態の改善に伴って、昭和45年までは体重・身長ともにすべての年月齢で増加していた。昭和55年以降、2歳以上の幼児の身体発育は、年齢によって、また計測項目によって多少の誤差があるものの、ほとんど変化はみられない。
(4) 健康・栄養状態
「第3節、発育の評価、2、身体発育値の評価」で述べた通りである。
(5) 地域差
日本人の体重や身長には地域差が多少みられ、北海道・東北地区など北側の地域ではやや大きく、九州・中国・四国地区など南西側の地域ではやや小さい傾向がみられる。その差は、幼児の年齢とともに大きくなる傾向があり、幼児期後半では平均値として、体重は約1kg弱、身長は約1cm強の差がみられる。
(6) 社会経済的因子
前述のいろいろな因子は、家庭の収入などの経済的条件、保健知識や保健に関する意識などと密接に関連している。現在の日本では社会経済的因子は必ずしも考慮されないことが多いが、ことに開発途上国の乳幼児の発育を考える場合は、大切な因子の1つである。
2、保育の意義
(1) 子どもの要求への対処
前述のようにいろいろな子ども達がいて、生物的要求や社会的要求などさまざまな要求をもち、それらを満たしたいと思っている。しかし、要求を満たすためには、しばしばぶつかり合いや競争を経験する。人間の社会では共存と競争の両方の原理が働いている。相手と共存し社会的関係を保つためには、ある時は相手の要求を受け入れる必要がある。共存することは学ばねばならない。したがって、自我に目覚めた当初から、自分の要求は何でも通るという気持ちを克服する努力が求められる。
子どもは、最初、自分の要求が禁止されることの理由が理解できないかもしれない。しかし、やがて成長して知識が豊かになってくると、その理由がわかってくる。
(2) 自主性と協調性
自主性と協調性を育てることは、子どもにとって大切な課題である。自主性や独創性は、他の人に耳を傾け協調することと両立しなければならない。自主性と協調性というこの一見矛盾する態度を、子どものときから身につけることが大切である。自分の意見をもたず、自己主張のできない人に育ててはならない。
幼稚園の自由行動などは、遊びを自分で選ぶことによって、独創性を伸ばすのに大きな意味をもつ。学校では定められたカリキュラムに基づく学習が行われるが、それを自分のものとするには、自主性が子どものときに充分に培われていることが必要である。
このことは、近年重視されている国際化にも当てはまる。国際感覚を培うためには、自分たちの生きる国や社会の文化への理解とともに、他の人々の生き方や異なる文化から聞く態度が必要である。
(3) 信頼関係
身近に世話をする大人と子どもとの信頼関係が、子どもが発育後、他の人を信頼して生きていけるかどうかの鍵となる。親しい大人に、自分をかけがえのない大切な存在として受け入れられていることを確認した子どもは、その大人への信頼感をもつ。子どもは鋭い直感で大人の態度を感じとる。そして、そのような大人への信頼感は、他の人々への関わりのあり方を決めていく。
参考文献
1)厚生労働省雇用均等・児童家庭局:平成12年乳幼児身体発育 調査報告書、2001
2)加藤則子、高石昌弘:乳幼児のカウプ指数、小児保健研究、51 (4):560〜563、1992
3)大森世都子、高石昌弘:乳幼児の身長別体重平均値、小児保健 研究、51(4):553〜559、1992
4)厚生労働省統計情報部:人口動態統計、2000
キーワード解説
母子相互作用 : 母親と子どもとが触覚、視覚、聴覚、嗅覚などの感覚を介してお互い影響し合い、母と子の人間関係の基盤となる心のきずなをつくり上げるメカニズムをいう。子どもの発育状況は一人ひとり異なり、その性格も違うので、これらは母親に様々な影響を及ぼす。その中で、母親も人間として成長し、子どもも発育していく。
母性意識 : 女性にはもともと母性、すなわち母親らしさが備わっているというより、妊娠中や出産前後にいろいろ経験して初めて母性が少しずつ備わっていくと考えられている。妊娠中は、超音波診断装置で胎児心拍動音を聞いたり、胎動を自覚して、自分の体内にいる胎児の生命力を実感として感じとる。出産後は、授乳したり、さまざまな育児行動を通して母性意識が高まっていく。
一日30食品 : 昭和60年に当時厚生省が策定した「健康づくりのための食生活指針」に「一日30食品を目標に」とうたわれている。一日30品目以上の食品を食べると、栄養のバランスがとれるだけでなく、がんの予防になるとも考えられている。ある食品に未知の発がん物質が含まれていた場合、それを摂取しすぎるとがんになる心配がある。しかし、多種類の食品を食べることにより危険が分散される。
胸囲 : 乳幼児は1歳前後、運動機能の発達とともにからだつきがひきしまってくると、胸囲の計測値が多少減少する場合がある。また、胸囲の大小によって何か病気が発見されることはほとんどない。そこで、年長になるにしたがい、胸囲の計測は省略する場合が多くなる。
パーセンタイル値 : パーセンタイル値は、集団の中で小さい方から何%目に該当する値であるかを示している。発育値が正規分布であれば、平均値±標準偏差値がよい。しかし、乳幼児の発育値は、やや大きい方に偏りがあるので、より正確に分布を表せるパーセンタイル値を用いる。諸外国の発育値と比較する際も、この方が便利である。
生理的体重減少 : 生後数日間の新生児の体重は、生理的体重減少として出生体重の5〜10%ほど減少する。胎児は羊水中で生活していたが、新生児は母体から外界に出て水分が失われるにもかかわらず、十分な量、哺乳できないからである。生理的体重減少はあるのが正常であり、ない場合は重症な先天性心奇形などの疾病が心配される。
成長ホルモン分泌不全性低身長症 : 2、3歳ころまでやや小柄であるが、それ以降、ほとんど成長しなくなる。ただし体型は年齢相当であり、発達は正常である。骨年齢を調べ病的に低い場合は、入院して検査を行い成長ホルモンの分泌不全を確認して診断する。できれば4、5歳ころまでに発見し、早期から治療したい。地域により頻度は異なるものの、4、5歳児の1000〜2000人に1人が治療を受けている。
脳性まひ : 胎内で、あるいは周産期、乳幼児期(早期)に種々の原因によって生じた非進行性の中枢性運動障害である。運動発達の遅れ、筋緊張の異常、姿勢の異常、運動の円滑さの欠如などがある。発生率は出生1000対1くらいである。知的障害、てんかん、摂食障害、呼吸障害なども抱えた重複障害が半数以上を占めている。
皮下脂肪 : 皮下脂肪の厚さは、皮膚をつまんだ時の厚みで簡単にみることができる。また超音波の計測器を用いて肥満判定を行うこともある。しかし、測定方法により誤差が生じやすく、計測する部位が少しでもずれると計測値の再現性に乏しいので、一般的にはあまり用いられない。
症候性肥満 : 肥満が他の疾患の症状の1つになっている場合をいう。肥満の他に、知的障害、外陰部の低形成、低身長などを伴うプラダー・ウィリー症候群は、平成14年より成長ホルモン治療の適応となり、この治療により身長の伸びが期待できるようになった。
1型糖尿病 : 糖尿病は、インシュリンの相対的あるいは絶対的欠乏によって生じる代謝異常である。その中で2型糖尿病(成人型糖尿病)は、肥満に伴って発症しやすい生活習慣病である。しかし、1型糖尿病(若年型糖尿病)は、生活習慣とは無関係に発症するインシュリン依存型糖尿病である。早期に発見して、食事療法と運動療法の他、インシュリンの注射を生涯行わなければならない。
若年・高年齢の妊娠 : 他の先進国また開発途上国に比べて、25〜35歳くらいで妊娠・出産する女性が日本では比較的多い。若年また高年齢での妊娠・出産が比較的少ない。結果として、前者は虐待の中のネグレクトの発生を、また、後者は障害をもって生まれる子どもの割合を少なくする要因となっている。
体外受精 : 手術などによって母体の卵巣から排卵直前の卵子を取りだし、培養基に移して精子を加え受精させる方法である。一般的には、この受精卵を48時間後に膣を通して子宮に着床させる。日本では昭和58年に成功して以来、実施登録施設数は毎年増加し、平成10年末までに4万人以上が、また平成10年は1万
830人、全出生児の0.90%が誕生した。
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