国立成育医療センター研究所
成育政策科学研究部 Department of Health Policy

平成21年度厚生労働科学研究(子ども家庭総合研究事業)分担研究報告書
「法制化後の小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価・情報提供に関する研究」

小児慢性特定疾患治療研究事業(膠原病)の全国登録状況

研究分担者:加藤 忠明、 国立成育医療センター研究所成育政策科学研究部長

研究要旨: 法制化後の平成17年度小児慢性特定疾患治療研究事業に登録されたが、18年度に非継続であった膠原病1,551人の経過を調査した。17年度に登録された医療機関に対して、21年度に質問紙調査を行い、返送数964通、回収率62.2%であった。非継続となった理由は、制度上の理由67.2%、家族の都合14.4%、経過が順調9.4%を合わせると91.0%であり、当該事業が医療費助成制度としてほぼ適正に運営されていることを示していた。しかし、経過が再燃または悪化したにもかかわらず再申請していなかった患者の多くは年齢が対象外との理由であったので、20歳以上の患者への何らかの医療費助成が望まれる。疾患名の変更はなく、電子データ上の多くの疾患名は正確なものと考えられる。そして、死亡症例の報告数は、人口動態統計での死亡数と近似していたので、非継続症例の経過を全国レベルで把握できたと考えられる。発症から死亡に至る経過が判明したので、その経過を少しでも回避できるような医療、また生活指導が望まれる。

見出し語:小児慢性特定疾患治療研究事業、膠原病、非継続症例、死亡経過

研究協力者:武井修治、鹿児島大学医学部保健学科教授
         原田正平、国立成育医療センター研究所成育医療政策科学研究室長
         
掛江直子、国立成育医療センター研究所成育保健政策科学研究室長
         顧 艶紅、国立成育医療センター成育政策科学研究部流動研究員
         竹原健二、国立成育医療センター成育政策科学研究部リサーチレジデント
         藤本純一郎、国立成育医療センター研究所副所長

A.研究目的
 小児慢性特定疾患治療研究事業(以下、小慢事業)では、治癒、死亡等で受給資格がなくなり医療受診券が返還される場合、受給者の転帰(治癒、死亡、他都道府県市転出等を含む中止)を各実施主体において小慢事業台帳に記入することになっているが1)、そうしたデータの全国集計は行われていない。そのため、申請書が提出されなくなった症例の経過が不明である。また、電子データによる厚生労働省への報告に不備が存在する可能性もある。
そこで、昨年度は小慢事業(慢性腎疾患、慢性呼吸器疾患、糖尿病、慢性消化器疾患)の非継続症例の経過に関する質問紙調査を全国レベルで行った2)。今年度は、それに引き続き小慢事業(膠原病)に関して同様の質問紙調査を行った。

B.対象と方法
 対象者は、17年度小慢事業の膠原病登録時に研究の資料にすることに同意を得られた方で、17年度に登録されたが18年度に登録されなかった1,551人であった。
 18年度小慢事業の医療意見書に関する厚生労働省への電子データによる報告は、全国99か所の実施主体のうち21年6月までに、93か所の実施主体から行われた。そのうち17年度に医療機関名が報告された82か所の実施主体の症例を対象とした。
個人情報保護のため氏名、住所、生年月日等は自動的に削除された電子データを用いた。小慢事業の電子データを年度ごとに順次入力すると、当該年度の前年度に登録されたが当該年度に登録されなかった症例を自動的に抽出する症例情報データベースシステムを用いて対象者を選定した3)
 対象者に関する医療機関への調査内容は、「調査時点の症例の経過」、「死亡した症例は、死亡年月、死因と経過」、「調査時点で小慢事業への申請の有無」、「申請した場合は、申請疾患名、受給者番号、申請した実施主体」、「申請しなかった場合は、対象外となった理由」であった。
 調査票は、医療機関宛に21年6月に発送し、22年2月末までに返送された内容を集計解析した。そして、国立成育医療センターのサーバー内に構築された症例情報データベースシステムに入力・保存されている10〜18年度小慢事業の電子データと共に患児の経過をまとめた3) 

C.結果
 返送数は、964通(回収率62.2%)、該当者なし等ほとんど無記入の無効回答を除き、有効回答例は953人(有効回答率61.4%)であった。
 昨年度の調査では、4疾患群合わせた返送数2913通(回収率61.7%)、有効回答例は2838人(有効回答率60.1%)であったので、今回の調査では若干増加していた2)

1,平成17年度小慢事業に登録された症例の経過
 17年度小慢事業に登録されたものの18年度に非継続となった症例の臨床経過に関する質問紙調査結果、及び18年度小慢事業に登録された継続症例の臨床経過に関する電子データの結果を表1、表2に示す。表1は疾患群全体の患児の経過、表2は10人以上回答のあった疾患の患児の経過である。
 膠原病全体、また、川崎病性冠動脈病変の非継続症例は「軽快」「治癒」「寛解」の順に多く、継続症例は「不変」「軽快」の順であった。継続症例ではほとんど把握できなかった「治癒」と「死亡」例の報告が非継続症例の調査により得られた。若年性特発性関節炎を含む若年性関節リウマチ、またスチーブンス・ジョンソン症候群でも同様、非継続症例は「寛解」「治癒」「軽快」が多く、継続症例は「不変」「軽快」が多かった。

表1 平成17年度小慢事業に登録された「膠原病」全体としての経過

経過

非継続症例1) 継続症例2)
人数(人) ( % ) 人数(人) ( % )

治癒

189 ( 19.8 ) 2 ( 0.1 )
寛解 176 ( 18.5 ) 291 ( 12.4 )
軽快 273 ( 28.6 ) 837 ( 35.7 )
不変 118 12.4 ) 909 ( 38.8 )
再発 0 ( 0.0 ) 24 ( 1.0 )
再燃 16 ( 1.7 ) 52 ( 2.2 )
悪化 4 ( 0.4 ) 33 ( 1.4 )
死亡 9 ( 0.9 ) 0 ( 0.0 )
不明 168 ( 17.6 ) 194 ( 8.3 )
合計 953 ( 100 ) 2,342 ( 100 )

1)平成17年度小慢事業に登録され、18年度に非継続となった症例(表2も同様)
2)平成17年度、18年度ともに小慢事業に登録された継続症例(表2も同様)

表2 平成17年度小慢事業に登録された「膠原病」個々の疾患の経過

経過

非継続症例1) 継続症例2)
人数(人) ( % ) 人数(人) ( % )
川崎病性冠動脈病変

治癒

123 ( 20.7 ) 1 ( 0.1 )
寛解 97 ( 16.3 ) 45 ( 4.9 )
軽快 224 ( 37.7 ) 193 ( 20.8 )
不変 67 ( 11.3 ) 564 ( 60.9 )
再発 0 ( 0.0 ) 3 ( 0.3 )
再燃 1 ( 0.2 ) 3 ( 0.3 )
悪化 1 ( 0.2 ) 13 ( 1.4 )
死亡 2 ( 0.3 ) 0 ( 0.0 )
不明 79 ( 13.3 ) 104 ( 11.2 )
合計 594 ( 100 ) 926 ( 100 )
若年性関節リウマチ(含、若年性特発性関節炎)

治癒

63 ( 19.0 ) 1 ( 0.1 )
寛解 73 ( 22.1 ) 227 ( 17.4 )
軽快 46 ( 13.9 ) 611 ( 46.8 )
不変 45 ( 13.6 ) 305 ( 23.4 )
再発 0 ( 0.0 ) 21 ( 1.6 )
再燃 15 ( 4.5 ) 45 ( 3.4 )
悪化 3 ( 0.9 ) 19 ( 1.5 )
死亡 6 ( 1.8 ) 0 ( 0.0 )
不明 80 ( 24.2 ) 77 ( 5.9 )
合計 33 ( 100 ) 1,306 ( 100 )
シェーグレン症候群

治癒

0 ( 0.0 ) 0 ( 0.0 )
寛解 3 ( 25.0 ) 3 ( 7.9 )
軽快 1 ( 8.3 ) 12 ( 31.6 )
不変 4 ( 33.3 ) 18 ( 47.4 )
再燃

0

( 0.0 ) 1 ( 2.6 )
悪化

0

( 0.0 ) 0 ( 0.0 )
死亡 0 ( 0.0 ) 0 ( 0.0 )
不明 4 ( 33.3 ) 4 ( 10.5 )
合計 12 ( 100 ) 38 ( 100 )
スチーブンス・ジョンソン症候群

治癒

3 ( 27.3 ) 0 ( 0 )
寛解 2 ( 8.2 ) 3 ( 16.7 )
軽快 1 ( 9.1 ) 5 ( 27.8 )
不変 1 ( 9.1 ) 8 ( 44.4 )
再燃

0

( 0.0 ) 1 ( 5.6 )
悪化 0 ( 0.0 ) 1 ( 5.6 )
死亡

1

( 9.1 ) 0 ( 0.0 )
不明 3 ( 27.3 ) 0 ( 0.0 )
合計

11

( 100 ) 18 ( 100 )

2,死亡症例の発症から死亡までの経過
 「膠原病」の死亡9症例に関して、疾患名と死亡に至る経過を表3に示す。多い順に、若年性関節リウマチ4人、若年性特発性関節炎2人、川崎病性冠動脈病変2人、スチーブンス・ジョンソン症候群1人であった。
 川崎病性冠動脈病変の7)、及びスチーブンス・ジョンソン症候群の9)を除けば、原疾患または治療に何らか関連した要因によって亡くなっていた。

3,18年度非継続であったものの、21年度調査時点で小慢事業に申請していた症
 平成18年度小慢事業として厚生労働省へ報告された電子データでは非継続とされたものの、21年度小慢事業には申請されていた症例は68人(有効回答者の7.1%)であった。また、他の疾患群と異なり、全員が17年度小慢事業と同様の疾患名で申請していた。
 受給者番号を17年度小慢事業の電子データと比較すると、一致症例40人、不一致16人、不明12人であった。不一致と不明の28人中、実施主体番号は19人が同じで、8人が異なり、1人が不明であった。

4,小慢事業に申請しなかった理由
 現場でも小慢事業に継続申請しなかった症例は、死亡した9人を除き876人で、その理由が記載されていたのは817人であった。その内訳は、年齢が対象外:91人(11.1%)、疾患の対象基準外:458人(56.1%)、転院:82人(10.0%)、転科:2人(0.2%)、治療を中断:60人(7.3%、治癒20人、寛解20人、軽快6人、不変1人、経過が不明13人)、他の医療費助成制度を利用:20人(2.4%)、未受診:66人(8.1%、寛解3人、軽快7人、不変6人、経過が不明50人)、治癒または寛解:21人(2.6%)、家族の希望10人(1.2%)、申請し忘れ3人(0.4%)、海外居住:4人( 0.5%)であった。
 小慢事業に継続申請しなかった理由は、疾患の対象基準外、年齢が対象外等、制度そのものによる理由が549人(67.2%)と多かった。次いで転院、乳幼児医療費助成制度など他の医療費助成制度を利用、親の希望、海外居住等、家族の都合による理由が118人(14.4%)を占めていた。その他、治癒、寛解、軽快など経過が順調になったとの理由は77人(9.4%)であった。問題となる可能性のある未受診、治療を中断し経過が不明との回答は 63人(7.7%)と少なかった。
経過が再燃または悪化とされた20人中、5人は再申請し、9人は年齢が対象外、4人が転院、また、疾患の対象基準外と親の希望とが各1人であった。

表3 「膠原病」の死亡9症例の経過

最終登録時疾患名
死亡者数/
有効回答者数

死亡時の年齢と性別:発病から死亡に至る経過

14)  若年性関節リウマチ
4318

1) 12か月女児:11か月時に発病、全身型、リウマトイド因子陰性、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド薬にて治療中、血球貪食リンパ組織球症にて死亡
2) 2歳11か月女児:1歳5か月時に発病、全身型、リウマトイド因子陽性、ステロイド薬、免疫抑制薬で治療し軽快していたが、腸炎、DIC、循環不全にて死亡
3) 4歳女児:2歳時に発病、全身型、リウマトイド因子陰性、ステロイド薬、免疫抑制薬、抗凝固療法で治療、当初寛解するも悪化して死亡
4) 19歳女児:14歳で発病、全身型、リウマトイド因子陽性、非ステロイド系抗炎症薬、ステロイド薬で治療し軽快していたが、ワーファリン内服中に机から転落して死亡

5〜6) 若年性特発性関節炎
213

5) 10歳女児:1歳時に発病、病型不明、リウマトイド因子陰性、ステロイド薬の治療にて軽快していたが、EBウィルス関連リンパ腫にて死亡
6) 19歳女児:6歳時に発病、全身型、ステロイド薬、免疫抑制薬で治療し軽快していたが、19歳で再発、免疫調整薬に変更するも敗血症にて死亡
7〜8) 川崎病性冠動脈病変
2594

7) 7か月男児:生後5か月で川崎病にて入院、11日目に退院、アスピリン服用中13日目にけいれん発症、その2週間後、急性壊死性脳症にて死亡、原因不明
8) 1歳10か月女児:1歳3か月時に発病、巨大冠動脈瘤あり抗凝固療法にて軽快していたが、心筋梗塞による心不全にて死亡

9) スチーブンス・ジョンソン症候群
1/11人
9) 23歳男児:10歳で発病、眼症状はあるもののほとんど無治療で、経過は不変であったが、肺炎による呼吸不全で死亡

D.考察
 今回の調査では、全体として回収率、有効回答率ともに62%前後となったことは、全国の医療機関関係者の協力のおかげである。また、同時に小慢事業に登録されなくなった症例の経過を把握することの大切さ、関心の高さを示している。
 非継続となった理由として、制度上の理由 67.2%、家族の都合14.4%、経過が順調9.4%を合わせると91.0%であり、小慢事業が医療費助成制度としてほぼ適正に運営されていることを示している。
  しかし、経過が再燃または悪化とされたものの、小慢事業に再申請していなかった15人中、9人は年齢が対象外となっていた。20歳以上のキャリーオーバー患者にも何らかの医療費助成が望まれる。
 18年度非継続であったものの、今回の調査で小慢事業に申請していた症例の割合は7.1%であり、昨年度調査した他の4疾患群の14〜 47%と比べて少なかった2)。年月を経たことと共に、疾患特有の状況によると推測される。また、疾患名の明らかな変更はなく、電子データ上の疾患名は正確なものと考えられる。
 全国82/99の実施主体に登録された症例から61.4%の有効回答を得られたので、全国の症例の約半数を1〜3年間把握した結果である。平成18〜20年の人口動態統計によれば、若年性関節炎による死亡は0〜4歳3人、15〜19歳3人、心筋梗塞による死亡は0〜4歳2人、5〜9歳2人であった4)。死亡統計上の分類が小慢事業での登録内容と異なるので、厳密な比較はできないが、ほぼ同等の人数を把握できたと推測される。膠原病のある子どもの死亡に至る経過を全国レベルで把握できたので、若年性特発性関節炎等の治療、また経過観察の際の参考になると期待される。
 1か所の医療機関で同じような経過をたどって亡くなる慢性疾患児を経験することが少なくなっている。そこで、死亡症例をその後の医療に生かすことが難しい。今回の調査では、全国レベルでその状況を把握できたので、今後の小児医療の現場で役立つ資料となることが期待される。

E.結論
 1)小慢事業に登録されなくなった症例の経過を把握することの大切さが今回の調査で示され、小慢事業が医療費助成制度としてほぼ適正に運営されていることが確認された。
 2)しかし、経過が再燃または悪化したにもかかわらず再申請していなかった患者の多くは年齢が対象外との理由であったので、20歳以上の患者への何らかの医療費助成が望まれる。
 3)膠原病での死亡症例の報告数は、人口動態統計での死亡数と近似していた。今回の調査により非継続症例の経過を全国レベルで把握できたと考えられる。
 4)9人の死亡症例の報告があり、発症から死亡に至る経過が判明した。その経過を少しでも回避できるような医療、また生活指導が望まれる。

謝辞
 
研究にご協力いただいた患児家族、厚生労働省や地方自治体の担当者、そして医療機関、ことに死亡症例をご報告いただいた担当医師に深謝いたします。

資料
1)倉辻忠俊監修:医療意見書.小児慢性特定疾患早見表(登録管理用)平成19年度版;207、2008
2)加藤忠明、原田正平、安藤亜希、他:小児慢性特定疾患治療研究事業(慢性腎疾患、慢性呼吸器疾患、糖尿病、慢性消化器疾患)の非継続症例の経過に関する実態調査.平成 20年度厚生労働科学研究「法制化後の小児慢性特定疾患治療研究事業の登録・管理・評価・情報提供に関する研究」報告書;39〜52、 2009
3)原田正平:症例情報データベースシステム基本仕様書.平成17年度厚生労働科学研究「子どもの病気に関する包括的データベースの構築とその利用に関する研究」:13-51、2006
4)厚生労働省統計情報部:平成18年、19年人口動態統計下巻、2008,2009、2010


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