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年報(原稿) 1997年=平成9年

国立小児病院小児医療研究センター 先天異常研究部(遺伝染色体研究室・奇形研究室)

 

研究の概要

 先天異常は軽度のものまでも含めると全出生の 5-6 %を占めることがWHOの統計などに示されている。また我国の乳児死亡率は世界で最も低い水準にあるが、その中では先天異常が 35 %を占め第 1 位である。先天異常の原因の多くに遺伝が関与しており、先天異常の問題は小児の医療・保健の分野で重要な位置を占める。またこの 20 年来、遺伝情報を担う物質であるDNAの解析技術が急速に進展し、医学・生物学の分野に大きなインパクトを与えてきた。

 先天異常研究部は、主としてDNA組換など分子生物学的手法を用いて、ヒト遺伝子の構造と機能について研究している。特に、遺伝病や遺伝子異常に起因する疾患(腫瘍)の責任遺伝子を探求し、患者に生じたDNA変異を解析し、疾患責任遺伝子の発現調節と機能について解析している。これらの結果は診断に役立ち、また疾患の病理と病態の理解にも貢献するものである。さらに、これらの遺伝子情報と遺伝子工学の技術に基いた治療法の開発を目指している。

 先天異常研究部は遺伝染色体研究室と奇形研究室の 2 室からなり、定員はわずか 4 名、レジデント 1 名を加えても 5 名であるが、外部からの医師・研究者・学生を受入れ、あるいは研究費による研究補助員の参加を得て研究を進めている。レジデントの長尾芳朗は 9 月末に職を辞し、新設された理化学研究所脳科学総合研究センター病因遺伝子研究グループのスタッフメンバーとして赴任した。

 本年の研究協力者を記す。科学技術庁重点研究支援協力員の於保祐子は、本年度も引き続き、主として当研究部で研究に従事した。東京大学大学院医学系研究科国際保健学専門課程の柳澤比呂子は修士課程から博士課程に進学し、引き続き当研究室で研究を行った。本年度も卒業実験生として、日本大学農獣医学部応用生物科から大葉龍太郎・鈴木友香里・長尾和右・前野剛を引き受け、また千葉大学大学院医学研究科博士課程の藤井克則、慶應義塾大学大学院医学研究科博士課程の小須賀基通、国立小児病院眼科医長東範行、免疫研究室袁曽榮も当研究部で実験に従事している。さらに慶應義塾大学医学部消化器内科高橋正彦・海老沼浩利、国立小児病院神経科飛田理子、藤沢市民病院立石格、およびかって当研究室でDNA解析を学んだ何人かが随時参加し、また浅香敦子・大塚裕子・佐々木恭子・西村千寿子が実験補助として、齋藤佳代子が事務補助として研究を支えた。

 研究課題の多くはセンター内外の研究室との共同研究であり、以下に課題ごとに記載した他、多くの共同研究課題が進行中である。またこれらの研究にあたって、厚生省小児医療研究委託費、厚生省ヒトゲノム遺伝子治療研究事業、がん克服戦略研究事業、特定疾患調査研究事業、また文部省科学研究費などにより御援助をいただいており、感謝の意を表します。

遺伝性疾患のDNA解析とその臨床応用

 近年の分子生物学の進展によってヒトのような巨大なゲノムでも遺伝子解析できるようになり、遺伝病や遺伝子病(腫瘍)の責任遺伝子が同定できるようになった。特に、生化学要因が不明である疾患でも、疾患遺伝子の染色体上の位置情報に基づいて遺伝子を単離し、遺伝子研究から病理と病態を理解し、治療法を開発するという方法論が有力であることが示されている。最近のヒトゲノムプロジェクトによってゲノム解析に有用な多くのクローンが集積され、ゲノム地図や情報の整備が進み、疾患責任遺伝子研究が加速されてきた。当研究部でも、責任遺伝子が未同定の遺伝病についてポジショナル戦略や候補遺伝子アプローチによって疾患責任遺伝子を探索し、また既に責任遺伝子が同定された遺伝病について、患者における変異を同定し、病態と変異スペクトラムとの関係を解析する研究を行っている。

1) 疾患責任遺伝子の探求

1−1) 腎形成不全症とWT1

 各種腎形成不全症についてWT1遺伝子の異常を解析することによって Frasier 症候群がWT1遺伝子の異常に起因することを明らかにした。WT1遺伝子は胎児性腎腫瘍である Wilms 腫瘍の責任遺伝子として 1990 年に同定単離された癌抑制遺伝子である。いくつかの腫瘍遺伝子あるいは癌抑制遺伝子が奇形の責任遺伝子でもあることは良く知られており、実際WT1遺伝子も、腎不全・泌尿生殖器形成不全・ウイルムス腫瘍を特徴とする Denys-Drash 症候群 (OMIM 194080) の責任遺伝子であることが 1991 年に示されている。我々の研究部では、日本人 Wilms 腫瘍や Denys-Drash 症候群患者で変異を同定し、1993 年以来報告してきたが、その後、典型的な Denys-Drash 症候群に限定せず、非典型例あるいは広範な腎不全患者のWT1遺伝子解析を進めてきた。今回、Frasier 症候群( OMIM 136680 )に区分される患者でWT1遺伝子変異を見出した。Frasier 症候群は、Denys-Drash 症候群と同様に腎不全と泌尿生殖器形成不全を伴うが、ウイルムス腫瘍は伴わないとされ、また腎不全も進行性で、発症時期が遅いことから別の疾患として区分されてきた。すなわち、腎不全は乳幼児期には明らかでなく、学童期に蛋白尿に気づかれ、しかし腎生検による病理学的所見では顕著な変化を認めず、やがて思春期から成人早期に最終段階の腎不全となる。我々の結果によれば、両者の疾患ともにWT1遺伝子の DNA 結合部位であるジンクフィンガー部位の構造を変化させる変異であり、変異蛋白質の転写制御能の差異によって、少し異なる病態を呈すると推察した。試験管内反応によって機能の解析を進めている。(国立小児病院小児科腎消化器・香坂医長、泌尿器科・柿沢医長、研究検査科・宮内科長との共同研究)。

1−2) Alagille 症候群

 肝内胆管形成不全により新生児黄疸を伴う Alagille 症候群の原因遺伝子探索をポジショナル戦略で行っていた。1997 年 6 月に米国の F. Collins のグループと、L. Hood のグループから同疾患の責任遺伝子として Jagged1 が報告された。解析していた 8 患者家系で変異を同定し、病態と変異との対応づけを行った(国立小児病院腎消化器香坂医長との共同研究)。

1−3) 眼形成異常症

 眼の形成にPAX6遺伝子が関与していることは、1991 年に無虹彩症の責任遺伝子として同定されて以来、確立している。当研究室では、無虹彩症に限定せず、広範な眼形成異常症についてPAX6遺伝子変異を探索し、すでに孤立性黄班低形成症もPAX6の変異に起因することを明らかとしてきた。その後の解析から、スプライスの違うエクソン 5a 部分に初めてミスセンス変異を見出すなど、多数のユニークな変異を同定し、変異と病態との対応付けを行った。Human Gene Mutation Database には現在 94 種類のPAX6変異が登録されているが、当研究部単独でその約 1/3 に匹敵する変異を同定してきた(国立小児病院眼科東医長との共同研究)。

2) 遺伝病のDNA診断および解析技術の精度向上

3) DNA多型と連鎖検定などへの応用

4) ヒトゲノムプロジェクト

5) トリプレットリピート伸張病としての歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症

 神経変性疾患の 1 つである歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)は、小脳失調と、錐体外路系異常に基づく不随意運動の両者が共に認められることに特徴があり、病理学的には小脳歯状核・その遠心路にあたる赤核・大脳基底核である淡蒼球とルイ体に萎縮性病変が認められる。常染色体優性の遺伝様式を示し、日本人に 200 〜 500 人程度の患者が存在すると推定されているが、欧米人では極めて稀であるとされてきた。当研究部ではこれまでに、CAGのトリプレットリピートの伸張が発症原因であることを見いだし、DRPLA責任遺伝子のcDNAおよびゲノム構造を明らかにし、創始者染色体を明らかにするなど、DRPLA遺伝子研究をリードしてきた。 CAGリピート伸長病ではCAGリピートが翻訳領域に位置することは共通であるが、疾患毎に神経細胞死が生じる脳の部位が異なり様々な病態を呈する。したがって、CAGリピート伸長病では (1) CAGリピート伸長によって神経細胞死が生じる分子機構、(2) 神経細胞死が生じる脳の部位の決定機構、(3) 伸長リピートが一層伸長する分子機構の 3 課題の解明が待たれる。これらに加え、DRPLA遺伝子の正常機能の解明を含め、様々な方向からアプローチしている。リピートの高効率による翻訳によって培養細胞にアポトーシスが誘導される反応について解析し、DRPLAの転写調節部位を解析し、DRPLAと結合する蛋白質を同定し、DRPLAと高い相同性を持つ遺伝子を単離した。またDRPLAとアポトーシスの関係について(3−1−2)アポトーシスの項目に記載した結果を得た。(国立小児病院神経科、東京大学神経内科などとの共同研究)。  6)遺伝子治療 肝細胞を標的とする遺伝子治療について基礎研究を進めた。肝細胞で特異的に発現するよう調節要素を開発し、レトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよびリポゾーム系による遺伝子導入法を確立した。また導入する遺伝子の機能に着目した新しい系の開発も目指した。  6−1)アデノウイルスが感染した肝細胞の排除機構に関する研究:アデノウイルスの高い免疫原性のため、ベクターが感染した肝細胞が速やかに排除され、遺伝子発現も短期間で消失する。この肝細胞排除機構を検討し、Fas を介するアポトーシスにより速やかに排除されることを確認した。  6−2)Fas リガンド遺伝子の肝細胞への導入と移植免疫における効果(大阪大学細胞生体工学センター金田博士、実験外科生体工学研究部鈴木部長のグループとの共同研究):ラット肝細胞に HVJ リポゾームによって Fas リガンド遺伝子を導入して発現させ、その後、異系統のラットに肝移植した。Fas リガンドが発現するアログラフト肝を移植されたラットの生存日数は、対照に比べて7−10日延長することが示された。また、Cre/loxP 組換えシステムを応用して、Fas リガンド遺伝子の発現を制御できるアデノウイルスベクターを作製し、このウイルスベクター系における移植免疫効果を検討している。

2.小児腫瘍における腫瘍遺伝子の構造と機能

1)小児腫瘍における腫瘍遺伝子の構造異常

 神経芽細胞種でしばしば増幅し、予後因子として知られている N-myc 遺伝子について、増幅の程度を簡便に測定する方法を開発し、また国立小児病院での高度先進医療「固形腫瘍のDNA診断」に協力している。

2)ウイルムス腫瘍の原因遺伝子WT1の機能

 ウイルムス腫瘍の一つの責任遺伝子であるWT1遺伝子は、別のがん抑制遺伝子である p53 によって抑制されることを見いだし、その分子機構を解明している。

3.哺乳動物細胞における遺伝子発現の調節機構

1) アポトーシスを誘導および抑制する遺伝子の発現制御

1−1) グルココルチコイドにより誘導されるアポトーシスの解析

 グルココルチコイドによるアポトーシスを Bcl-2 が完全に抑制する分子機序を解析した。Bcl-2 はアポトーシスのシグナル伝達において、ミトコンドリア膜電位の低下、活性酸素の産生、カスパーゼの活性化といった現象の上流で抑制的にはたらいていることを明らかにした。またグルココルチコイドによるアポトーシス誘導時、活性化されるカスパーゼについて詳細な解析を行うとともに、Bcl-2 がグルココルチコイド受容体の転写因子としての機能の一部に影響を与えていることも見い出した。

1−2) DRPLA蛋白質の限定分解と凝集性に関する研究

 DRPLA蛋白質がアポトーシスの過程で限定分解をうけることを見出した。プロテアーゼ阻害剤等を用いた実験から、カスパーゼ3が反応に関与することを証明し、また切断位置を特定した。限定分解を受けたDRPLA蛋白質の断片は、全長に比べ、細胞内で凝集を生じやすいことも見い出した。これらの所見から、カスパーゼによる限定分解、凝集性の上昇、細胞毒性という一連の反応過程が推定され、発症機序を推定するとともに、治療薬としてのカスパーゼ阻害剤の可能性が示唆された。

2) 下垂体系ホルモンの発現調節機構と臨床応用

 

 

研究業績

1.論文発表 [原著論文(欧文)] [総説(和文)]

2.学会発表

【公的研究費】

【教育活動】

【特別講義】

【委員会活動】

別ページに記載した。

 

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